movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『デトロイト』

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近年「ハートロッカー」や「ゼロダークサーティ」など、現実を演出してきたキャスリン・ビグロー監督だが、今作はそんな彼女が新たなレベルに達した一本であり、現状最高傑作だと考える。

 

前述した2作はいずれも素晴らしい映画だが、言うところの観客に考えさせる映画であったと思う。例えば「ハートロッカー」であったら、最後に主人公があの戦場になぜ戻るのか、といった具合だ。このような観客への余白や行間がそれまではあったと思う。だが今回はそのような観客が頭を働かせる余地がない。只々現実を突きつける。この部分で、まず、根本の目的として今作が観客に「忘れさせない」ための映画であることは明白だ。この部分で、前2作よりもさらに高いところを今作は目指している。この根本の目的の部分の時点で「デトロイト」は一歩進んだ場所にいる。

 

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そして映画の内面である演出の部分でもビグロー監督は進化している。夜の闇の切り取り方から、「今見てるのが現実なんだぞ!」と観客にビンタするような目覚まし要員的、手持ちカメラワークまで。その手札の多さと、誠実さには圧倒される。さらに登場人物の位置関係も、しっかり事件が起こるまでで交通整理をしておいて、モーテルからはここのシュチュエーションの動きだけで緊迫させることに成功している。この辺りがビグロー監督は一枚も二枚も上手だ。

 

役者人の熱演も光る。特にジョン・ボイエガとウィル・ポールターの若手演技合戦は、2010年代のベストパフォーマンスの一つとして数えてもいいほどの名演だったと思う。この作品でジョン・ボイエガは「夜の大捜査線」のシドニー・ポワチエを手本にしたとインタビューにあったが、正にそれを連想させるような、素晴らしい演技であった。

 

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特筆したいところはたくさんあるが、ここではサブエピソードのドラマティックスという黒人系バンドの話に注目したい。ドラマティックは1962年から実際に活動しているバンドで、その原点がこの悪夢の舞台デトロイトであった。ここで明かされるバンドの裏話がかなり胸にくる。音楽映画好きとしても、かなり濃厚なエピソードであった。と、同時に今アメリカのヒップホップやブラックカルチャーがムーブメントを起こしている今だからこそ、彼らのエピソードに触れるべきではないかと思う。ケンドリックラマーやフランクオーシャンが出てくるまでにはこんな現実があったということを忘れてはいけないし、これからブラックミュージックの聞き方の意識が改めて変わるようなエピソードであった。

 

古くは工業都市として栄え、今や廃墟が多い街として有名だったり、映画的に言うと「グラントリノ」は勿論、近年は「イットフォローズ」、「ドントブリーズ」、ジャームッシュの「オンリーラヴァースレフトアライブ」などのホラー映画の舞台となっているが、今作を見てからはこの街の見方がかなり変わり、こういう歴史を背負ってきた街なんだと頭に植え付けられるであろう。あの事件が地獄ではなく、それが起こる前から始まっていて、終わってからもずっと続く。終わらない地獄=現実のお話であった。