movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『羊の木』

 

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 人が一線を超えてしまったとはよく言うが、その一線とはどのラインなのか、そんなことを奇抜な設定と、苦い青春物語として、やだ味たっぷりな田舎コミュニティの中描ききったのが本作「羊の木」だ。

 

吉田大八監督はそれまで世界の複雑さに目を向けた作品が多かったように思えるが、今回は明らかに人間についての話をしている。人を信じる材料とは何か、第一印象で植え付けられたイメージと真逆のことがわかったら、自分の考えも真逆になるのか、などの究極の他者論、コミュニュケーション論を突きつける。そしてこのあたりで重要になってくる作品内キーワードが、松田龍平錦戸亮の間に生まれる「友達」という関係であり、劇中では何度もそれが言葉となって繰り返される。

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おそらく若い頃に組んでいたであろう、ベース錦戸亮、ギター木村文乃、ドラム松尾諭のバンド(このバンド自体がまず最高なわけだが)が、なんとなく青春の香りをほのかに香らせる。そんな中に入ってくる松田龍平のキャラクターが次第に登場人物だけでなく、見ている観客にすら友達と感じさせ、その上でクライマックスに究極の選択を突きつけてくる。残酷なのはここでの木村文乃の態度の変わりようと、水中から1人助かってしまう錦戸亮だろう。こういう真実と、それでも変われない他者を突きつけられたらどのような行動に出るかと観客に訴えかける。

 

この街が信仰してる不気味な神、のろろさまの存在も大きい。この神様に対し町民は見てはいけないという風習を、のろろ祭りとされるシークエンスでも徹底してる。しかし、終盤引き上げられた神様の姿を登場人物たちが見上げるという場面がラストまわりに出てくる。おそらく、この神様は多面性と過去と業を背負った人間のメタファーであり、その他者同士がお互いに対して明るくなっていき、何かが変化していることを象徴しているラストであろう。だから絶望や苦さだけではない、寧ろ希望的な後味が残るエンディングとなっている。

 

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 そして、これもまた他者とのコミュニケーションの希望の提示、より良い世界へのメッセージというテーマの流れにある作品だ。6人の殺人犯の6つのエピソードが同時進行していき、絶望的な終わり方をするものもあれば、中には希望的な終わり方をするものも。「スリー・ビルボード」のような、多種多様の人間の多さを描いたという側面や、「パディントン2」のようなより良い世界への希望を謳った作品としてもとれる。いずれにせよ今年のこの様な流れの中にある一本であると同時に、そこに今の日本に流れる独特な空気感、もっと言うと、コミュニティでの悪循環のサイクル性も絡ませた話となっている。やたら制度や組織の多いこの国で、そこを超えて判断するべき人間的部分、そして今の日本のどっしりと重たい雰囲気へのメッセージであるように思える。