movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『犬猿』

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兄弟、姉妹の軋轢と嫉妬を描いた映画は数あるが、吉田恵輔監督はそんな普遍的な物語を、とても現代的に、ナチュラル且つアイロニカルに描き出した。控えめに言って大傑作である。

まず、このオリジナル脚本のクオリティの高さを特筆したい。近年のティーン恋愛ものを皮肉ったオープニングの意地悪さから只者ではなさが漂う。そこから、車を運転する窪田正孝の背後にタイトル「犬猿」の文字。タイミングの絶妙さと同時に、それからの登場人物の背中を映し出す演出と、窪田正孝演じる主人公の秘めてる闇を予感させる、完璧な幕開けだ。主要人物4人の対比やストレッサーとなる動機の部分も非常に見事。富士急ハイランドでのデートの姉妹の対比など、かなり悪質ながら爆笑してしまうくだりである。

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 ブラックさとユーモアが共存した空気感で、次第に闇の部分が浸透していくのも吉田恵輔監督の十八番ながら、今回はその前半と後半のギャップにより勝負をかけた作りとなっていた。この終盤戦で起こるショッキングな出来事はとても直視できないが、今の日本でも起こりうる事件であり、この側から見たときの本人達にしか理解できない感じはかなりのリアリティを感じさせるものだった。そしてそこから、人間の醜さと愚かさを描きながらも、それでも人間的な、理性的な行動をとるクライマックスに涙する。人はそう簡単に変われないし、変わらない人もいるが、その変化しなさにも厳しくも優しい視線を送る、この視野の広さと懐の深さに感動した。そういう意味では、人間の変化を描いた「スリー・ビルボード」と対極の位置にいる映画といえる。

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役者のフックアップとショットのセンスも今作は過去最高に兼ね備えてる。主演4人のベストアクトは言わずもがな、彼らの背中を映すことで、だんだんヘビーな味わいが増していく演出もとても優れていた。どこを見せてどこを見せないか、もっと言うと、どこの「死の香りが漂う」表情を見せてどこを見せないかが徹底していて観客に不安感や想像力が増す作りとなっている。終盤、ギアを上げていくようにエモを高めていく演出も素晴らしい。それまで全くなかったが故に、ここぞという時に来る回想シークエンスとあの救急車を交差させるセンスに落涙する。そしてラストカットの顔面ドラミング。それまで背中を映してきたカメラが、人の変わらなさと怒りは収まらないが、関わっていくしかない人々の顔面を収めた時に拍手をしたくなった。

 

今年、今の所一番笑えながらも、寒気の様な怖さも兼ね備え、そして厳しくも優しい人間賛歌として着地していく、吉田恵輔監督はこれからどこまで高みを登っていくのか。映画のお手本の様な映画であった。