movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『サニー/32』

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 個人的に白石和彌は現在の日本映画界でも、最もパワフルな作家であると思っている。「凶悪」でその只者でなさを堂々と見せつけ、「日本で一番悪いやつら」でカウンターパンチを食らわされ、「雌猫たち」「彼女がその名を知らない鳥たち」で、依存してないと生きていけない男と女の愛憎劇を、性的かつエモーショナルに描いてきた。これらの作品を見てると、日本映画的エッセンスを、端正さを兼ね備えたエンターテイメントとして昇華させる作家として、右に出るものはいないのではないかと思っている。右に出るものがいないと言う点に関しては新作を発表するスピードも同じだ。去年のうちに二本の長編を劇場公開させ、その上、今年公開予定の二本も去年のうちに完成させ、試写も終わらせてしまっていると言う早業だ。この質とスピードのレベルの高さは日本映画界でもトップレベルではないかと思っている。そして、その今年公開の二本のうちの一本が今回の「サニー/32」である。だが、これまで彼の仕事を絶賛してきたのに対し、申し訳ないが以下はあまりポジティブではない意見になる。正直、監督初の大迷作であると思う。

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 まず、今回の物語では現代のSNSやネット描写が重要なファクターになっている。このネット描写に関しては、近年の日本映画の最大の課題の一つでもあるように思っている。例えば、近年でも「22年目の告白 私が殺人犯です」やNetflixの「DEVILMAN crybaby」で入江悠湯浅政明がぶち当たってた壁だ(この2作は作品としては大好き)。この描写は、特に動画のコメントや実況などを映画で演出するときに、かなり安っぽくなってしまいがちなのだが、今回は今挙げた作品よりも、さらに記号的かつ安易な描写になってしまっているのではないかと思う。例えば、中盤から出てくるYouTuberの「イライラしたときに頭を掻く」という描写など、とにかく記号的で恥ずかしい。勿論、動画のコメントなどの描写もなのだが、このあたりはどう演出したところで、安っぽくはなってしまいがちなので、もうそういう描写は入れないか、少なくとも物語的な盛り上がりになる部分で絡ませてくるのは避けた方が賢明だと、この映画を見てて思ったところだ。しかも、このあたりが前述したように物語上の重要なファクターになっているので全編にわたってかなりきつい。そうはいっても、後半からはそれらの描写へ客観的な視点が出てくるのだが、前半のそれがかなり尾を引いていた印象だ。

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 あと、これはほんと申し訳ないのだが、主演の北原里英の演技はもう少しどうにかならなかったのか。それも、脇をピエール瀧門脇麦が固めているので、余計に目立ってしまったというのもあるのだが。この映画の転換点となる、赦しを一人一人与えていくシーンも、彼女にただ怒鳴らせてるだけなので、かなり見辛く、キツイシーンになってしまっていた。

それに加えて、今回は高橋泉の脚本にも疑問が。ヒロインの電流の件など全く説明されないのは流石にどうなのかと思ったし、被害者の兄の扱いの雑さなど、描写不足且つかなり散漫な印象のシナリオだった。オリジナルでここまでトリッキーに展開させたのは純粋にすごいと思うが。

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 しかし、これだけ破天荒かつ暴力的な破茶滅茶をやっているのに、園子温をはじめとする暴力作家と一線を画すのは、白石監督の根本にある物語を描くという目的のためだろう。このために、死ぬほど無茶な破綻はしないし、徐々に映画全体のエモーショナル度も上がっていく作りとなっていて、このあたりはさすが白石和彌だと思わせる。何通りものエピソードのカットバックと、スライドしていくシチュエーションと暴力、そして、優しい着地の終盤戦は素直に見応えがあった。正直今回は傑作と手放しにはとても褒められないが、この監督らしさとさすがの腕を持ち合わせてるだけでも、5月に控えてる監督作のもう一本「狐狼の血」には期待してもいいんじゃないかと思わせる。