movie_99’s diary

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【映画レビュー】『ビガイルド 欲望のめざめ』

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「白い肌の異常な夜」を今作の公開に合わせて今年の年明けに見た。名匠ドン・シーゲルによって1971年に放たれたこの映画は、そこから「アルカトラズの脱出」でも組むこととなるクリント・イーストウッドを主演に迎え、女の園に足を踏み入れてしまった男を中心に巻き起こる静かな愛憎劇と地獄のような結末を、南北戦争のデリケートな時代を背景に、毒々しく艶かしく描いた作品だった。全編に漂うポイズニックかつエロティックな独特の雰囲気とシュチュエーションとお粗末な一瞬の愛のせいでズレていき悪夢的な結末になってしまう男と女の物語はとても見応えがあり、そこらのホラーよりも数倍背筋が凍る。

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対して今回のソフィア・コッポラによるリメイクは物語自体はいたってオリジナルに忠実である。ただ、オリジナルは負傷した兵士、男側の視点が主観になっていたが、今作の主観は女側の視点になっている。ここが今回は大きくソフィア・コッポラ色になっている部分であろう。「ヴァージン・スーサイズ」を連想させるような女の園の描き方、全体を白に統一した色調など、愛や恋に未熟な女たちを描くにあたっては抜群のセンスだ。そんな作風をもつソフィア・コッポラが今回のリメイクをやったというのは、実はとても適任だったと思わせる。

同時にオリジナルよりも薄れてしまっている部分も。ひとえに毒々しさの部分だ。オリジナルで強かった南北戦争の影はかなり薄められ、オリジナルにあった空間の異常性、闇を漂わせる悪魔的なカットバックも少なかったように思える。この、エグい部分がかなり薄れ、大人向けな上品さを優先させていることは賛否分かれるところだろう。ここから見ても、物語自体はほぼ忠実であれ、オリジナル版とは明らかに違う味わいの作品となっている。

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一方でこの作品だけ単体で切り離して語れるところがあるとすれば、ショットのセンスだ。ライティングのハイレベルさはコッポラ作品でも随一だろう。オープニングのショットから、巨大な木々のスケールと対照的に小さくなっていく少女の後ろ姿を映していて、この物語が非常にミニマムながら巨大な闇を帯びていることを暗示している。これらのショットのセンスは最後の最後、ラストカットに至るまで徹底されている。このラストカットの計算された構図とカメラの引きはとてもカッコよく、鳥肌ものであった。負傷した兵士を見つけるときの、素早いカメラワークなど、映像の「動き」に関しても今回はフレッシュかつ面白い映像になっていた。

ソフィア・コッポラの作家性と題材が見事にマッチされ、多少薄口となっても映画としての「質」は相当確かなものがある秀作であると思うが、今この話をやるという意義をあまり感じさせなかったというのは最後に苦言として残しておきたい。この題材で、トランプ政権後のアメリカやme too運動など、世界のムーブメントや問題提起を少しでも感じさせてくれたらさらに評価されていたのではないかと思う。コッポラ自身があまりそういうことに興味がないのかもしれないが、ただでさえ絡ませやすい題材であったため、もう少しその時代性みたいなのを感じさせてくれれば完璧だった。