movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『ビッグシック ぼくたちの大いなる目覚め』

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自分はアパトーギャング贔屓の人間なので、ジャド・アパトーがプロデュースに入っている今作も外せない映画だったわけだが。今作で重要なのはむしろプロデュースのジャド・アパトーよりも、主演のクメイル・ナンジアニの実話であるというところかもしれない。彼はアメリカでは名の知れているコメディアンで、最近ではNetflixのドラマ「マスターオブゼロ」のアジズ・アンサリらとともに、移民系、民族系コメディアンとしてブレイクしてきている。そんな彼の実際にあった恋愛話を自身が脚本を書き、自身が本人役を演じたのが本作だ。

彼は実際に自身の民族や経験を自虐的にネタにして芸を披露していくわけだが、まずこの彼の普段のスタンダップコメディの精神性が、この映画の、自身の話を語るどこまでも「自虐的」なプロットの精神性にマッチしている。自分の話をどう語るかにおいて彼は普段のコメディ芸の時点で長けているのである。そしてその脚本が先日行われたアカデミー賞脚本賞にノミネートされたのもすごい話だ。

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この脚本の素晴らしさは挙げるときりがないのだが、一つは実話を元にした、正に自伝的内容にもかかわらず、近年の映画のトレンドを加味した上で普遍的な物語として機能している点であろう。人種の物語と思わせて、シリアスな難病ものになり、ラストはストレートなロマンティックコメディに着地していく、このストーリーテリングのスライドのスムースさと豊かさは映画的としか言いようがない見心地の良さがある。さらに、現代で語るのであれば、人種についての問題提起を掘り下げそうなものなのだが、敢えてそうせず、より普遍的な「自立」と「けじめ」の物語を語り、寧ろそこから掘り下げすぎない程度にバランスを測った映画でもある。このチャーミングさとあざとくなさがとても心地の良いドラマを生んでいる要因である。

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あと、もう一つ素晴らしいのは役者陣だ。主演のクメイル・ナンジアニとヒロインのゾーイ・カザンのやり取りはいつまでも見ていられる愉快さであった。「50回目のファーストキス」のアダム・サンドラードリュー・バリモア同様、ラブコメにおいての主演二人のケミストリーはとても重要であり、その点においても今回はクリアしている。と同時に、彼らと合わせ鏡のようになる夫婦であり、ヒロインの両親を演じたホリー・ハンターとレイ・ロマノも名演であった。後半は彼ら中心に物語が動いていく中、変人らしさと人間らしさを兼ね備えた演技で、クメイルと徐々に打ち解けていく様に妙な説得力を与えていた。単純に巧すぎる。その他の脇役もそれぞれ見所があり、見ているだけでとても面白かった。芸人仲間の彼らとか、つくづく最高である。

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同時に、最終的にはやはりジャド・アパトーのプロデュースセンスに恐れ入る。ここで、クメイル・ナンジアニを引っ張り上げ、自身も完全な大人向けコメディ作家として、今回はストレートなロマンティックコメディを手がける、彼の目の確かさはやはり今のハリウッドでもずば抜けていると感じさせる。今回見てて彼の手がけた過去作で連想したのは「素敵な人生の終わり方」という2008年の監督作である(日本ではビデオスルー )。アダム・サンドラー演じる余命僅かのスタンダップコメディアンが自身の人生に目を向けていく人間ドラマの秀作だが、この映画で既に芸人の活動事情などを赤裸々に描いていた。なんせ自身もスタンダップコメディ出身というキャリアだ。Netflixに彼のスタンダップコメディが入っているので興味のある人はこの映画と合わせて見てもらいたい。

 

まずは自己紹介を。出身はパキスタン

みんなに聞かれます。どんな国?

こことほぼ同じです。

野球のピリ辛版のクリケットで遊び、1日に5回だけお祈りを捧げる。そして親が見つけた相手と見合い結婚を。あと「ナイトライダー」が遅れて放送される。今エピソード2が放送されたところです。

それ以外は全く同じです。 〜映画冒頭より〜

 

正に、人種や性別や価値観は違うけど、「それ以外は」同じ人たちの物語。この冒頭で流れた彼のスタンダップコメディ通りの物語であった。そして、そんな彼だからこそ書けたであろう、気の利いた見事なラスト。あの二人の表情。忘れない。素晴らしい映画であった。