movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『ダウンサイズ』

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アレクサンダー・ペインは現代のアメリカ人監督でも個人的には指折りにお気に入りの監督である。近年、固定のファンがついており、ここ3作品は全てオスカーにノミネートされているなど、批評家の信頼も確立してきてはいたのだが、今作「ダウンサイズ」に関しては、向こうでも興行的にも批評的にも振るわない結果となってしまった。監督久々の不発作といって申し分ないだろう。ただ、実際見てみると、やはりどこまでもペイン的なアイロニーと優しさに満ちたヒューマンドラマの秀作であったことをここに伝えておきたい。事前の評判だけでスルーするのにはあまりに勿体無い逸品であった。

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アレクサンダー・ペインといえば、個人的にはミニマムだが地味に感動させる作品を撮らせたら右に出るものはいない作家であると思っている。話自体は非常に地味、なんならなんてことのない話を、積み重ね積み重ねの演出と不意に訪れる変化に、いつも涙腺を刺激されている。そしてそれは今回の「ダウンサイズ」でも健在である。設定こそ突飛だが、お話自体はなんてことのないミニマムな物語に収めてるあたりとても信頼や安心感がある。そして今回も、主人公の選択についての話に的を絞っていくシンプルさも含めてどこまでもペイン的だ。何を選んでどこに止まるか。主人公が正しい判断をするまでのお話である。これに2時間もかけてしまうのが、そしてそれなのに退屈にならないのはペインにしか出来ない技だ。

変化の見せ方がとても映画的であるのもペインの特徴だ。絶対に登場人物の変化をセリフに託すことなどペインはしない。それは「ファミリーツリー」の毛布であったり、「ネブラスカ 二つの心をつなぐ旅」の帽子がそうであるように。今回も、お弁当であったり、雨であったり、歩くこと、走ることで見せている。この不意に訪れる変化に泣きそうになるのだ。この一ミリずつ進んでいる感じがペイン作品全体のナチュラルな心地よさに繋がっているのではと感じさせる。

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アレクサンダー・ペイン十八番のロードムービー要素も、しっかり盛り込まれており、ここの部分が他の作品に比べて若干冗長に感じる気もしないでもないが、このシークエンスこそ、旅や川のスケールの巨大さと、彼ら自身と物語のミニマムさ、小ささみたいなものと、うまくお互い効き合っているところだ。ここのただ船旅をするシークエンスのおかしさこそ、この全体の突飛なSF設定が効いてくる場面なのである。ペインはここも油断しないのかと脱帽する。

キャストのおかしさにも触れておきたい。マット・デイモンの純粋な演技の素晴らしさ、クリストフ・ヴァルツの使い方の正しさ、ホン・チャウの熱演と見所が多い。さらに脇にクリステン・ウィグウド・キアー、ニール・パトリック・ハリスジェイソン・サダイキス、一瞬だがマーゴ・マーチン・デールまで出てくる豪華っぷりだ。彼らの使い方のセンスも抜群で、このバイブスが本当に素晴らしかった。あとどうでもいいが、ホン・チャウの8種類のファックのセリフは今年ベストセリフかというぐらい最高であった。あのセリフは表彰したい。

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前述したようにロードムービー的展開になることが多いペイン作品の登場人物は毎回旅をする。その中で描かれるのはやたら右往左往する登場人物。そんな彼らが、いるべき場所にとどまるまでのお話でもあるのだ。今作も離婚やら仕事やらで右往左往していたマット・デイモンはいるべき場所に収まる。この収まり方が今作は特に感動的だ。雨の中彼は走り続ける。もう走れない人の分も。これだけなんてことないのに映像的で感動的なラストはない。確かにペインの近作の中では薄口ではあるし、決して万人に開かれた作品ではないが、地味ながら奥深い映画的な感動が待っている安定のアレクサンダー・ペインの新作を見逃す手はないのではないか。自分は大好きな映画だ。