movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『ブラックパンサー』

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2018年に何があったか?

これからこの年のことを振り返る上で「ブラックパンサー」の名前を挙げないことはないだろう。正に今年を、そしてリアルタイムを象徴するポップカルチャー史の一つの進化を見たと言っても過言ではない。この映画で、MCUおよびディズニーは、映画、音楽を含むエンタメと現代のトレンドを更新しながら、現代のデリケートなアメリカへ切り込んでいくことを見事達成してしまった。

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ここ最近のMCUは実はそこまで調子がいいわけではなく、去年は特に一連の作品の興収を見ても、大衆の飽きがはっきり見えてしまうほど、過去の作品と比べると低調であった。その中、今回の「ブラックパンサー」が今アメリカで記録的ヒットを飛ばしているのは、現代性の一歩先を行ったテーマとトレンドの的確な捉え方によるものだろう。それらがとても高いレベルでMCUという現状最大のユニバースに含まれたということ。これがまずとんでもないことなのだ。

 

それを実現させてしまったライアン・クーグラーはまだ31歳の若手黒人監督。彼の作品のエモーショナルで熱い仕上がり故にその印象はあまりなかったが、実はそもそもブラックコミュニティについての問題提起は根本のテーマ、作家性として前々からあった人だったと気づく。なんせ元々デビュー作の「フルートベール駅で」は白人警官に理不尽に若くして射殺されてしまった黒人青年の事件が起こるまでの1日を描いた作品である。2作目の「クリード」も一見それらの作品とは離れて見えるが、独学的な黒人ストリート文化のミキシングや、アドニスの今までの人生の余白で、そのようなブラックコミュニティに対するアメリカの香りをほんの少し漂わせる。そんな彼の過去作を見ていても今回の流れは大いに納得だが、本作はその彼のテーマを主軸に、さらに前進したメッセージを描いている。

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前述したクーグラーのデビュー作「フルートベール駅で」も含め、差別や偏見へ問題提起をする映画、音楽は現在山のようにある。だが、この映画はそこから一歩進み、傍観する第三者に対してのメッセージにもなっている。自分のコミュニティしか見ていない人たちに向かい、お前らが見ているのが世界の全てではない、何ならそこ以外のところに現実はあるのじゃないかと訴えかけてくる。これは、人種差別や偏見を比較的あまり身近に感じない我々日本人にこそ刺さるテーマである。もう少し世界に目を向けて行くべきというのは、今の日本のエンタメ業界も含め、様々なものに当てはまっていくのではないか。

そして今回面白いのは、その映画が語っているテーマを悪役に語らせるという物語構造だ。この訴えが同時に今回のヴィランの動機になり、正に上記の第三者的なブラックパンサーがその矛先になっていくのだ。この構造がとても斬新であると同時に、このヴィランのバックボーンと、それを含んだ脚本の凄まじさはMCU史上どころか、映画史上に残ると言っても過言ではないだろう。なぜ彼がダークサイドに堕ちていってしまったのか。そこには何もしてこなかった罪、そしてそれによって奪われた命、そこからの怒りがあり、これらに向き合うことでブラックパンサーは、本当のヒーローとして、リーダーとして目覚めていく。正に現代の我々vs蘇った現代のマルコムXといったところか。そこから彼らの「正しさ」を巡る哀しき闘いにどんなに胸が締め付けられたか。

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彼らの争い巡る「正しさ」と、我々に問いかけてくる課題は正にとてもリアリティがあり、現代ならでは行き着いた領域だ。だからこそ、ラストの2人が見るワカンダの景観に涙する。序盤のワカンダも確かに美しいが、ラストに映されるあの景色は、正に本当の意味での理想郷であり、我々の目指すべき景色だ。それをヴィランの彼にも見せてあげるライアン・クーグラーの優しさにとんでもない量の涙が出た。

 

This may be the night that my dreams might let me know
今夜は夢に近づく夜かもしれない
All the stars are closer, all the stars are closer, all the stars are closer
だってすべての星たちがすぐそこに、近づいている
This may be the night that my dreams might let me know
今夜は夢に近づく夜かもしれない
All the stars are closer, all the stars are closer, all the stars are closer
だってすべての星たちがすぐそこに、近づいている

                                       〜ALL THE STARS〜

エンディングでケンドリック・ラマーとSZAが歌う、すぐそこにある手の届きそうな星こそ、ラストに映るワカンダである。この世界の理想を宇宙として歌い上げるこの曲を筆頭に、この映画でケンドリック・ラマーの作ったサウンドも同時にこれから残っていくであろう。音楽、映画、ヒーロー、国、歴史、世界。全ては一直線に現実に繋がっていく。そこで改めて、フィクションの偉大さにひれ伏せる。この世界に、この時代に生まれた物語として、どこまでも希望的で、どこまでも突き刺さる。国から世界へ。1992年から2018年へ。これから未来永劫語り継いでくべき大傑作だ。