movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【映画レビュー】『シェイプ・オブ・ウォーター』

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つい先日、第90回アカデミー賞で、見事作品賞に輝いた本作。自分も、WOWOWのソーシャルビューイングで落涙していた町山さんほどではなかったが、この結果には興奮した。それはひとえに、ここ最近かぶることなかった作品賞と監督賞の受賞が一致した、そしてそれがギレルモ・デル・トロだったというところだ。彼が受賞したことは、例えば同じくマニアック系の映画監督でもタランティーノが毎回脚本賞あたりに名を連ねてるのとは全く別の話であり、別の意味を持っているのは明らかだ。これはよくできた物語や社会性だけが必ずしも映画の面白さや評価すべきところではないというのの証明になったのではないかと思っている。

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もっとも今作はその物語もよくできている。言葉をなんらかの理由で失ってしまった女性が、同じく人間の言葉を持たない異種のものと、通じ合い、ダブルミーニングで「傷」が癒されていく物語だ。正に「キングコング」「美女と野獣」「シュレック」などなどが繰り返し描いて来たものへの、デル・トロのアンサーにとれる。側から見ればネガティブなハンデのように見えるものでも、それが見方を変えれば特別なものへと変化する、そしてそれによって、今作で描かれる愛のように、幸福に繋がっていくこともあるのだという。彼らにしかわからない赤い糸が徐々に側から見てる我々に見えていく感覚は唯一無二のものであり、デル・トロはそれを描ききったと言えると思う。

もう少し、タイトルにあるシェイプ(形)に絡ませて話をすると、この映画の登場人物は常に見た目を気にしている。サリー・ホーキンス演じる女性は毎日靴を磨き、リチャード・ジェンキンス演じる隣人はカツラを気にかけている。そんな見た目というある種型にはまった形が半魚人と出会ったことで徐々に剥がれていく。靴を捨て、髪も生えてくる。一方、マイケル・シャノン演じる、悪役といってもいいであろうこのキャラクターはその自分の形を壊されて暴走していく。小便の時に絶対に使わない手を引きちぎられ、新車を壊され(この車に関しては買った直後に明確に彼が他人の目を気にするシークエンスが入る)。だが、何よりも彼が壊されて我慢できなかったのは、自分が今まで築いてきた、信頼とイメージである。そこに、彼の組織の中の肩身の狭さ、脆さが現れていて、悪役ながら非常に人間味のあるキャラクターになっている。故に終盤の狂気のような焦りっぷりにも説得力がある。そんな型という名の形に振り回されていった人と、それを脱却し愛をつかもうとした人の物語として、とても面白く見応えがあった。

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しかし、それ以上にこの映画の魅力は、徹底された映像美とディテールだ。これに尽きる。デル・トロ作品のディテールのこだわりようは勿論過去作品を見ても圧巻だ。「ヘルボーイ」「ヘルボーイ ゴールデンアーミー」「ブレイド」などのヒーローものから「パンズラビリンス」や「パシフィックリム」まで、様々なファンタジーを構築してきた彼だからこそできる技だが、その世界観を一つ残らず舐め尽くすカメラも今回は絶品。ダン・ローストセンの映し出す緑と黒の世界は正に極上の美しさであった。シルエットや水滴を映す際のセンスもさることながら、この映画の水が一概に青ではなく、緑っぽいのが素晴らしい。ここは一概に撮影ではなくカラリストの仕事なのだろうが、ここの水の色が、「大アマゾンの半魚人」のアマゾンを明らかに意識しているのだが、その世界観の徹底っぷりに感動し、とても引き込まれた。

1962年という時代背景も良い。ソ連との冷戦下のアメリカが舞台ということで、ラブストーリーと同時に流れるのは意外にもポリティカルサスペンス的な空気感だ。このサスペンス部分の堂々とした佇まいとスリリングな攻防戦、クラシカルなルックも評価されるべき点だろう。

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デル・トロが作り出すフィクションはどこまでもファンタジーなのだが、同時に、毎回デル・トロ作品の登場人物は自分の信じているもの、信じたいものの方を取るという話をやっていると思う。それはデル・トロ自身が自分の好きなものを信じて映画を作り続けてることとも重なる。そしてその信じ続けてきたものが先日現実になった。オスカー像を片手に満面の笑みで壇上にあがる彼を見て、人の夢が叶った瞬間を見たと思った。正に形にとらわれ続けなかった男が、本当に作りたかったものを作り続けた男が手にした勝利だ。素直に喜ぶしかない。

言葉を持たないプリンセスの話をどう語るべきか?

彼みたいな人が映画を撮り続けてくれれば言葉などいらないと思わせる。素晴らしい傑作であった。