movie_99’s diary

映画や音楽やらの感想をぼちぼちと。

【ドラマレビュー】『anone』

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傑作だった…という言葉しか出てこない。これは1話ごと感想を書いていくべきだったが、なんとか総評を残しておく。個人的には昨年の「カルテット」も凄かったが、今作で描かれるニセモノとホンモノこそ、坂元裕二という作家の一つの到達点だと思う。

 

「mother」「それでも生きていく」「woman」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」…。近年の坂元裕二作品における、男と女、親と子供は嘘や偽りによって繋がる。嘘をつき、自分を偽り。そんな人々を描いてきた坂元裕二だからこそ、今回の偽り、つまりはニセモノを、完全否定するのではなく、振り回されながらも、彼らには必要なものだったと思わせる優しい目線が展開される。ニセモノによって振り回される大人たち、ニセモノによって守られてきた子供。この大人と子供の対比構造が1話目であったが、その、振り回しが最も極に達したのが3話目であると思っている。そして、後半はやがて大人たちもニセモノに内包されていく。その様は幸福そうでありつつ、同時に弱くて脆いものに見える。この不穏さを一手に引き受ける瑛太の怪演も素晴らしいが、しかし確実に何かが奥底でホンモノになっていく感覚は坂元裕二作品特有のエモーショナルだろう。

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「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまうだろう」「カルテット」とここ近作を見てみると、「mother」「woman」「それでも生きていく」にはあった、血縁という要素から一歩引いた作風になっているのがよくわかる。今回の「anone」も正に、血縁に裏切られた孤独なもの同士のバイブスが出来ていくのである。そして今回はそれがとても強調され一つのテーマになっている。全然関係ない映画だが、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」がそうであったように、血縁以外のものから生み出される「縁」であり「居場所」の話なのだ。

今作の中での孤独な人々は元々独りだったわけではない。その前に「断絶」があるからこそ本物の繋がりを手に入れられるのである。今作は第9話のハリカと彦星のカーテン越しの胸痛む会話に代表されるように、目に見える断絶も勿論、その以前にあった主人公たちと、家族との断絶もしっかり見えるような作りになっている。この周りの血の繋がっているものも決して放り投げはしない。彼らの人生も同時に想像させ見せてくれる。画面に映ってない部分、人生までをも見させてくれただけで、物語を描いた映像作品として、今作は一段上の段階に行っていると言っていいだろう。

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水田伸生の演出もベストワーク。特に今作を特別なものに引き上げてるのは、照明の演出だ。第3話の浜辺の光の当たり方、第4話の小林聡美と幽霊との最後の会話のシークエンスなど。画面における白と黒をどう広げ、どう使うか。とても計算し尽くされていた。本当だったら1話1話見ていきたいほどだが割愛。この特殊な照明演出が、地上波ドラマというより、是枝裕和作品や、岩井俊二作品を見てるような感覚に陥った。撮影、音楽の落ち着いた格好良さも流石。

役者陣も素晴らしい。役者の名前を並べるだけになってしまうが、広瀬すずの虚ろかつ、過去が透けて見える目の演技は完全に彼女の女優としての成長が見えるし(先日見た「ちはやふるー結びー」と合わせて)、表面的な強さと内面的な脆さを兼ね備えた小林聡美はこの間「スリー・ビルボード」を見て、日本のフランシス・マクドーマンドは彼女しかいないと強く思った。去年の「彼女がその名を知らない鳥たち」で演じた役から汚さと下品さを取ったような阿部サダヲもベストな配役だった。この作品における不穏さを一気に担う瑛太も素晴らしい。とにかく不穏かつダークな路線へと転がらせる唯一のキャラクターとしてとても素晴らしかった。その他の、言葉が通じない人こと川瀬陽太や、最近の彼女でもベストな江口のりこや、火野正平の深く渋くて切ない演技も。そして何と言っても田中裕子だ。彼女の、敬語になるタイミングを絶妙に効かせた会話劇には何度も胸が掴まれた。一見平凡な中年女性が、ダークサイドな犯罪に取り憑かれていってしまうサスペンスとしても、彼女を軸にこの物語を語れるほどであった。

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孤独なものたちのヒューマンドラマでもあり、犯罪サスペンスでもあり、恋愛ドラマでもあり、ファンタジーでもある本作。とてもジャンル分け不能だが、あえて言うのだったら、これは明らかに近年の国内ドラマ群の中でも一線を画した映像作品だ。これだけ物語の尺とそれに合ったプロット、そしてそれに答える脚本と演出が洗練された国内ドラマも久しく見ていない。そして海外ドラマを合わせて見ても、今年、こんなにクールな視点で、犯罪、家族、死者を描いたドラマが他にあっただろうか。この点だけを見たとしても、確実に2010年代の日本のテレビ界が産み落とした奇跡的傑作だと断言できるだろう。